☆オランダハウス日常☆【ビクター旅行記 第1話 Victor’s Travels in SAGA Episode 1】 30センチの衝撃 The Impact of 30 cm

2018.09.18

みなさま、こんにちは。連休明け、いかがお過ごしでしょうか? 皆様にとりまして美しい一日でありますように……。

ここ数日、オランダハウスが迎えた5人目のアーティスト、ヴィクター・エンバース(Victor Engbors・より日本人の発音に近い綴りにしてほしいという本人の意向により以後、ビクターと記す)について、書きたいことが山のように溜まっている自分を発見! みなさま、ご記憶でしょうか? 高校生の時、習った、紀貫之(きのつらゆき)の『土佐日記』の出だしを。

「男もすなる日記というものを、女もしてみんとてするなり」

男が書くという「日記」というものを、女である私も大胆にもしてみようというのである。
これは面白い書き出しで、しっかり男である紀貫之が、女のふりをして、つまり女の目になっていまから書こうというのですね。当時は男しか日記形式で書かなかったという現状があったようですけれども。
人は自分でないものになってみたいと思う。歳をとるほど、自分というものから離れられなくなる。でも、もし……自分でないものの目になって、もう一度、赤ん坊のようにこの世界を眺められたら、どんなに楽しいだろう。

たしか8月の25日だったかに風車と木靴とチューリップの国・オランダから、アジアの国に行ったこともないのに、いきなり東京にも京都にも立ち寄らずに、まっすぐ福岡空港に飛んできた(しかも、よその国に2か月も来るのに、絵具だらけの白黒のしましまのおんぼろサンダルに、黒のポロシャツ、自分のオリジナルキャラ・キャプテンクヌートのイラストのついたTシャツを1、2枚しか持たずにやってきたんですよ、ビクターは!)
186センチ、110キロの大男(しかし、世界最高の身長を誇るオランダでは、186センチはちょうど平均だそう)。
足はジャイアント馬場もびっくりの30センチで、佐賀には彼の履ける靴は見つからない。お世話係の私がオランダハウスのある旧長崎街道筋を一緒に歩いていて、靴屋さんを通りかかるたび、

「ここは?」

「前にもうチェックした」

「ここは?」

「ここも。僕のサイズはない」……

「入る靴が見つからないなんて、シンデレラみたいね」

「ハハハハ、僕に合うガラスの靴はないよ……あったとしても体がでかいからきっと壊しちゃう」

「なるほどねえ」

などと言いながら、歩きます。

ある日、手芸用品を買い出しに行くビクター御用達の「サンカクヤ」さんのお向かいにビッグサイズのお店を見つけました。やっとのことで、30センチのサンダルに出会ったのに、「うーん、デザインがちょっと好きじゃないから、いい」……。
卒倒しそうになるお世話係の私とオランダハウスの美人マネージャー・キホドノ。
ビクターさん、好き嫌い言ってる場合ちゃうんちゃうのん(なぜか大阪言葉に)あなたは佐賀県が招聘した本国オランダを代表するアーティスト。いつなんどきえらい人の訪問を受けるとも限らないし、それに何より、ずっと同じサンダル履いてたら自分だって臭いでしょう?
と言いたいが、そこは「相手に合わせる」という世界でも珍しい性質を持つ日本人……いや、単に英語でわざわざ言うのがめんどくさいせいかもしれないが、きっとアーティストだから、白と黄色のしましまでないといかんとか自分ルールがあるのだろうと諦め、

「そう、夏も終わりだから、サンダルのデザインも多くないだね。こんど福岡にでも行ったときに、お店、探して買いに行きましょう」

「はい、そうです(ビクターの知っている日本語のあいづちがこれ)」。

アムステルダムからやってきたガリバーならぬ、ヴィクターさんは自分よりかなり小さな体の人たちが暮らす日本の九州の佐賀に、身一つで降り立ち、みんなで一緒に、2メートル×8メートルというとてつもなく大きな布の全面に刺繍する、というプロジェクトに2か月間、挑戦することになるのでした。

 

履物に関する追記:
その後も上に着ているものにかかわらず、おんぼろの白黒しましまのサンダルを履き続け、ネット通販で30センチの靴を探す気配もないヴィクターさんに、3か月間のインターンを終えて帰国する学生のデニーさん(24歳)が見るにみかねて、自分の履いていた鼻緒付きサンダルを譲渡。
現在、ビクターさんは作務衣(地元一の老舗デパート玉屋で購入)と、オランダハウスにほど近いスーパーマーケット・アステラビスタで足袋型ソックスを買い求め、このデニーさんの愛のサンダルを履いて、水曜日から日曜日まで、佐賀のみなさんと刺繍しています。

(文 オランダハウス広報・樋渡優子 Text by YUKO HIWATARI)

2018.3.17 - 2019.1.14
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