new!【オランダハウス日記】 ☆彡ママさんのはなし☆彡

2018.12.01

今日、自分の書いた英語のメールを見て愕然(がくぜん)としたのですが、オランダを意味するネーザーランズ、the Netherlands をthe Netherlandと、最後の「S」を抜かしてオランダ人に書き送っていることに気が付きました。
すまないことです。
複数を意味する「S」……◎◎たち、という言い方はあるけれど、日本語に元々ない要素は、いつも気を付けていないと(そして気を付けていても)、間違います。
その前は。急いで書いていて、Nether(低い)の部分がNeither(あれもこれもない)という綴りに変わっており、「低い土地」を意味するネーザーランズが、「あれもこれもない土地」という意味になっていまして、これも相手のオランダ人の方にはまったくもうしわけなく……
ここで皆様に恥をかいたら、もう間違えないと思いますので、あえて書かせていただきます。

 

オランダハウスに滞在して、アートを制作したオランダ人アーティストたちは、キュレーターの2人を除いて、みな日本語をほとんど話さない状態で、佐賀にきました。
単独で制作するタイプのアート分野より、参加型のアート制作のほうが、より日本語を話したり聞いたりする必要が出て来ます。最後にやってきた刺繍プロジェクトのビクター・エンバースさんは、その点、一生懸命、実践的日本語を勉強していました。
毎朝、オランダハウスに出勤してくる前に、50音をひらがな・カタカナ、紙に書いてお稽古。刺繍の合間も、時間ができると、大きな紙に「あいうえお」と書き始めるので、インターン生の若い2人に、「いつから勉強し始めたの? ビクターさん、すごい」と感心されていました。最後のほうでは、サインするときは相手の方のお名前を耳で聞いて、ひらがなですらすら書いていて、すばらしかったと思います。
昨日、勉強した日本語は、その翌日、通訳兼お世話係の私に使ってみるという積極的姿勢で、私もビクターさんの使う日本語を聴きながら、「これって面白いなあ」ということが沢山ありました。

その1例をあげますと――

 

ビクターさんがご自分のお母さまのことを話すとき、「ママニキサン」というのです。お母さまのお名前の愛称がニキ。オランダではある程度、成長すると、子供たちは親に対して、対等、かつ友人のような関係を築く一助として、名前で呼ぶようになるのだとのこと。
ビクターさん的には、日本語をなるだけ使いたいという心から、私のママ、ニキに、日本語の「さん」をつけて、ママニキサンという表現になっていたのでしょう。

 

「ママニキサンは、私にこう言います」

 

というような言い方をされるので、こちらも「ところで、ママニキサンは最近、お元気ですか?」というふうに使っていました。

 

ある朝のこと、仕事の要件を伝えるメッセンジャーに、

 

「haha yuko san」

 

と書いてありました、「ハハハ、優子さん」って、朝から何がおかしいのかしらと思い、「今朝もらったメールで意味のわからないところがありましたけど、ハハ、優子さんって、何か面白いことがあったの?」とたずねましたら、

 

「いえ、ちがいます。あれはハハユウコサンです。ユアマザー」
「ああ、母、優子さん。私の母のこと?」
「そです」

 

日本人は外国語が苦手で、出そうとしても出せない外国語の音がいっぱいあるのに対して、日本語の母音「あ、い、う、え、お」は数が少ない上に、外国人には発音しやすい。ただし、難しいのが「伸ばす音」で、日本語教師の方に「一番、外国人が苦労する発音は、封筒です」と聞いたことがあります。「ふうとう」と二度、連続して伸ばす音が出てくるから。
言われてみると、ビクターさんやブライアンさんの「ありがとう」は「ありがと」に聞こえますし、「そうです」は「そです」に聞こえます。

 

それはそうと、ジャーナリストでもあり、オランダ以外でもいろんな国を旅して、アートプロジェクトをしてきた経験豊かなビクターさんは、いくつも言葉を話します。
自分のお母さんはオランダの人だから洋風に「ママニキサン」、私の母は日本人だから、ママじゃなくて「母」に置き換えて、「母優子さん」というふうにしたのか! すごいセンスあるなあ……と思い感心していました。

 

そこから2週間ほどして、ビクターさんもいろんな人と友達になり、どんどん行動範囲が広がっていた頃、「◎◎のママさんが……」という聞きなれない言い方を使い始めました。

 

ん? ママさん??

 

人間、知らない言葉は口から出ません。
そうか、ビクターさんはお酒がものすごく強いし、お酒が好きだから、きっとママさんのいるお店に、だれか連れて行ったんだなあ。そこで「ママさん」という日本語を覚えたに違いない……
まるで、子育て中のお母さんが、息子が自分が教えてない言葉を使う。「ああ、どこからか覚えてきたな」とひそかに思うときも、こんな気持ちなのだろうかと思いました。ひるがえって、私に一からアラビア語を教えてくれた先生も、私が使うアラビア語から、同じことを思ったりしてたんだろうなあ……そういえば、「優子、私の友達(男性形)という言い方は、アラブ人が聞いたら、誤解する人がいるかもしれないから、私の知り合い(男性形)と使ったほうがいいよ」と言われたことなどを、なつかしく思い出しました。

 

さらにそこから2週間ほどたって、インターン生のブライアンさんとビクターさんと私で、日本のガールズバー(オランダにはない)やスナックのしくみが話題にのぼったとき、ふと思い出して聞いてみました。

 

「そういえば、ビクターさんはスナックに行ったことあるでしょ?」
「え?」
「だから、日本に来て、誰かに連れていってもらったでしょ、ママさんのいるスナックに」
「いいえ。たしかに日本酒バーやジャズバーには行きましたけど、スナックにはまだ行ってない」
「じゃあ、どこで、ママさんって日本語を覚えたの」
「ママさん?」
「だから、日本ではスナックのオーナーのマダムのことを、ママさんと呼びます。最近、ビクターさんがママさんというから、ママさんに会ったんだと思って」
「いいえ。日本語で、父はおとーさん、母はおかーさん、でしょう? また 「母」にさんをつけて、かあさん、「父」にさんをつけると、とうさん、といもいうことができると、日本語のテキストで読みました。だから、ママに、さんをつけてママさんとも言えますね?」
「ああ、そうだったの~」
「はい、さん、を付けると、日本語ではていねいですね」

 

なんでも、聞いてみないことにはわかりませんね。
その後、佐賀に滞在中、ビクターさんが、本物のママさんにお会いしたかどうかは不明ですが、それは次に日本に来た機会に尋ねてみることにして……
ママ、母、さん、この3つの組み合わせで、いろんな言い方が作れて、これだけ楽しめる日本語ってすごいと思いませんか?

 

(オランダハウス広報 樋渡優子)

2018.3.17 - 2019.1.14
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