佐賀と日本への感謝にあふれたオランダ人アーティスト ヴィクター・エンバースさん講演(その2)

2018.12.29

★★最初はただの無地の布だったものが、私の日本での体験が進むのに合わせ、ゆっくり埋まって行きました……★★

 

※以下、その1の後の部分になります。

 

プロジェクトは大きな無地の布と、何箱もの色とりどりの刺繍糸から始まりました。材料はすべて地元のサンカクヤで買い求めました。いまや私は、この手芸用品店のメンバーズカードのゴールド会員です。

 

しかし、さかのぼって、夏の日差しが照り付ける中、私は「これは大きなチャンレンジになる」と感じていました。いまならみんなで力を合わせて、作業するプロセスを楽しめば、できないことは何一つないのだと知っているのですが、プロジェクトを始めるその日まで、私は1枚のデザイン画も用意していなかったのです。
時折、そのことで不安にかられましたが、刺繍はまるで絵を描くように、ゆっくりと進んでいき、やがて、デザイン画の有無は問題ではないことがわかってきました。

 

みなさんがここで(オランダハウスのビクターアトリエ)刺繍している間、私は日本と佐賀について、より多くのことを学び、次のステップについて考えることができました。デザインがゆっくり膨らんでいくのと同じペースで、私も日本について学んで行きました。そう、日本のことわざに言う「水滴、岩をもうがつ」ようなゆっくりとした足取りで! こんなふうに刺繍プロジェクトは始まりました。
時に、私たちは黙ったまま刺繍しましたが、これは実際、とてもよいことでした。黙って同じ作業をすることは、コミュニケーションの一種でもありますので、沈黙は私を幸福にしました。とはいえ、多くの場合、私たちはさまざまな事を話しました。佐賀には英語の上手な人が沢山いましたし、やりとりするのに不足のない人、そうでなくてもスマートフォンの翻訳機能を使ったり、写真を見せたり……。そんなふうにしながら、私のほうも自分の国について多少、皆さんに説明ができましたが、より重要なことは、私が日本について、それよりはるかに多くのことを学んだことです。

 

少女が、日本の一番好きなところを話してくれたのを覚えてます。彼女は「四季の移り変わり」が一番好きだと言いましたが、私は灼熱の夏からすばらしい秋へと、季節のうつろいを実際に体験できたことは大変な喜びでした。ある女性は、「日本はいつも幸せな場所とは限らない」と語り(注:ビクターさんの刺繍の部屋には、〝Here is a happy place(ここは幸福な場所)という絵文字が壁に掲げられていました)そのことも私は大変興味深くとらえましたが、たいがいの場合、人々は楽しみ、笑い、私に話しかけたり、自分たち同士で会話を交わしてはジョークを言い合い……それがこの刺繍をしている間に起こったこと、一緒にこのアート作品を作成する途中で起きたことなのでした。

 

ある男の人は将来の自分の計画を語り(彼は昔からアーティストになりたかったのです)、ある高校生は彼女の弓術の腕前を見せてくれました。カササギとこの世界の成り立ちの話をしてくれた男性もいました。私は交わした会話をすべて覚えています。そのどれもが、私にとっては意義ぶかく、慕わしいものでした。

 

佐賀のことばもすこし覚えました……

 

よかよか、こい(これ)、あい(あれ)、そい(それ)、そいぎ(じゃあまた)……

 

日本の歴史、日本文化について学び、日本の色の中には歌人や歴史上の人物にちなんで付けられた名前のあることを知りました。日本建築についても、佐賀の人たちが旧長崎街道沿いにあ枝梅酒造や松川家旅館のような、伝統ある美しい建物を保存するために力を尽くしていることも知りました。

 

音楽もまた、このプロジェクトに重要な役割を果たしました。私たちは日本とオランダの音楽を一緒に聞きながら刺繍をし、私は演歌やその他の、日本の音楽のジャンルを知りました。あるご夫婦と音楽について話をしたとき、彼らは久石譲の音楽が好きだと言い、私もオランダの音楽について話し、その後、両方の曲を流して、耳を傾けつつ共に刺繍しました。
刺繍しながら、ここで歌った方たちもいました。刺繍プロジェクトを通じて、新しい友達ができましたが、彼らは私を夕飯や居酒屋に連れていってくれたり、山間部の三瀬高原ので満月パーティのような素敵な集まりにも誘ってくれました。このパーティは満月ごとに佐賀市で開かれるおいしいお酒と音楽の催しでした。

 

あるマダムは私を茶道のお茶会に誘って下さり、私とオランダ人のインターン生2人は、おおいにお茶席を楽しみました。
その3に続く)

 

 

↑ヴィクターさんのオリジナルキャラクター、「キャプテンクヌートのまぬけなきけん」シリーズ日本編のイラスト。日本の色に影響を受けた中間色の色合い。個人蔵。

 

↑10月28日の刺繍作品披露のレクチャーには、刺繍に参加くださった方、友人になった方など沢山の方にお集まりいただきました。

 

↑佐賀には手仕事の上手な人がいっぱい。このみなさんもそれぞれアクセサリーほか、ハンドクラフトをお仕事にされている皆さんでした。刺繍タイムには、壁に「ここは幸せな場所(Here is a Happy Place)」という絵文字を貼りました。

 

↑8月末にアムステルダムから佐賀に到着して、最初に撮りためた路上の風景や日本の色。特に日本の色には衝撃を受け、それが刺繍プロジェクトの出発点になった。

写真Victor Engbers

 

↑佐賀での住まいにもテレビの取材が! ひらがなを書いて見せるビクターさん。

 

↑ヴィクターさんのオリジナルキャラ、クヌートの絵本の一場面から。人魚の女王と王様につかまったクヌートと相棒ジャンゴはくらげの中にとじこめられてしまう。

 

↑刺繍の部屋にいつも貼ってあったことば。日本語、英語、オランダ語で感謝!

 

↑夏の頃、佐賀県神埼市の神社で。ここで初めて「おみくじ」をひきました。

 

 

翻訳・文 オランダハウス 樋渡優子
Translation text by Yuko Hiwatari at the Holland House

2018.3.17 - 2019.1.14
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